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Fel & Rikcy  第4部[ LOVE ] 1.料理

 入院して三週間。ようやく許可が下りて退院した。

 

 長かった!! ベッドの上でくたばるんじゃねぇかって思ったくらいだ。あ、でもこれ、フェルに言っちゃなんねぇ言葉だ。

 そして、今日はそれから6日目。退院したのは間違いだったかも、なんて考え始めてる俺がいた。

 

 シャワーは全部フェルがやってくれた、喜んで。だからそれはいい。でも何せ、フェルがウザいってほどうるさい。あれもこれも全部、やるな! 僕がやる! そりゃ助かるんだけど…… 夫って、何の役にも立たない時ってあるんだ。フェルはその典型だ。


「そんなに削ったら身が無くなっちまう!」
「何でじゃがいもが四角になるんだよ!」

 まだまだ使い物にならない俺の指。しばらくは外食とコンビニと、たまにあるシェリーからの差し入れ。そんなので凌いだ。試験が近いからシェリーからはホントにたまにだ。前の試験じゃゴタゴタして「あんたたちのせいで2位に転落したんだ!」って散々言われたから、俺は今現在の惨状をシェリーに言ってない。隣のニールんとこも差し入れしてくれるけど、どっちかっていうと余っちまうからって野菜とかの差し入れの方が多い。

 だから最後の手段でフェルに料理を教えることにした。でもこれはホントに最後の手段なんだ。

 

 胃潰瘍になった時、フェルは「料理は一緒に作ろう」って言ってくれた。だから俺はキッチンに二人で並んでワイワイしながら料理すんのもいいなって思ったんだ。でもそれはすぐに間違いだって分かった。

「何入れたんだよ!」

俺に作り方を聞きながら作ってくれたリゾット。俺が先にテーブルに行った後にそれは違うもんになってた。

「消化がいいからね。僕の時も母さんが作ってくれたし」

大好きな笑顔で作ってくれたリゾットは悪夢だった。

「体を活性化するって聞いたから生姜を入れたよ。生姜には消化を助ける効果があるんだって。他にも調べてみたら『消化を助けるスパイス』っていうサイトがあってさ、クミン、コリアンダーの種と葉っぱ、それからキャベツもいいって」
「スパイス、どんだけ入れたんだよ」
「えと、少々って書いてあったから小さじ1杯くらいずつかな。足りなかった?」

二の句が継げない。

「このキャベツの芯は!?」
「キャベツの芯って、栄養たっぷりなんだってさ! 知ってたか? だから……」

ようやく俺の顔色に気がついたみたいだ。急に声が小さくなってきた。

「あのな! まず、スパイスはだめだ、かけらも入れるな! それから、葉っぱ! 消化に悪いんだぞ。根っこの野菜がいいんだ。キノコとエビが入ってる。それもNGだ。今の俺には食えねぇ! 百歩譲ってキャベツの芯! 火が通ってりゃ食えたかもしんねぇ」

俺は息継ぎした。

 

「これ、味見したか?」
「いや……真っ先にお前に食べてもらおうと思って……」
「食え」

俺は皿をフェルの前に突き出した。さんざん俺に文句言われた後だから、恐る恐る口に入れている。口を もぐっ とした途端に目ん玉おっ広げたフェルは立ち上がってトイレに駆け込んだ。戻って来た時にはひどい顔になってた。

「美味かったか?」
「ごめん……これ、体に悪い」

すっかりしょげてるフェル。
「体にいいもの作ってやりたかったんだ、こんなんじゃなくて。何がいけなかったんだろう?」

 何もかもだよ!! 俺はそう言いたかったけど、フェルは俺のこと思って作ってくれたんだって思い直した。結果より気持ちが嬉しいんだ、こういうのは。

「悪いけど、これ、捨てる。次に期待する」

 そして、期待は裏切られ続けた。俺がとうとう爆発したのは、フェルがステーキを焼いた時だった。


 だいぶ胃潰瘍もよくなって食事が普通に戻った頃だ。普段なら手を出せない上等な肉が15%引き!! こんな時じゃねぇといい肉は食えねぇ。そう思って思わず2枚切ってもらって、俺はいそいそと寮に帰った。今日は俺が焼こう。これ、台無しにされちゃ堪んない。そう思って冷蔵庫の奥に隠した。

「トマトとセロリ、取りに来ない? 新鮮なのをもらったんだけど多くって」
シェリーにはいろんなモンが差し入れされる。
「人徳よ」
威張って言うけど、俺にはみんながゴマ擂ってワイロ出してるようにしか見えねぇ。でもそんなこと言うともらえなくなりそうだから、ちゃんと俺も言う。
「そうだよな、シェリー人気もんだし」

 いっぱい旨そうな野菜もらって帰って来たらジュウジュウと音がして、部屋が煙っている……。

「な、なにやってんだよ!」
「お帰り! 肉見つけたからさ、焼いといてやろうと思って。焼くくらいなら僕にも出来るからさ」
「付け合わせとかは? サラダとか」
「ん? 洗って千切って皿に乗せればいいんだろ? 肉焼き終わったらやるよ」
「バカ! 肉、冷めちまう!」

 俺は慌ててセロリの筋取ってスティックにした。トマトはスープを作るつもりだったけどもうそんな余裕はない。アマンダからもらったとっておきのモッツァレラチーズを出して、トマト、バジルを交互に重ねてオリーブ油と塩コショウで味付けした。その横にただ棒にしたセロリを置く。

  ……屈辱的なサラダだ……

でも、肉の焼ける匂いはやっぱ堪んない! 肉が良きゃいいか そう思ってテーブルにサラダを置いた。

ん? いつまで焼いてんだ?

「フェル、肉、まだ焼けないか?」
「ああ、もう焼けたよ」

ほっとした、肉、どうなんのかと思った。

 

「なに、これ」
「これって、肉だよ」
「どうして黒いの?」
「あ、あそこの戸棚に入ってたブラックペッパー使ったよ」
「どうして丸いの?」
「丸かったよ、最初っから」
「その隣に、粗びきなかったか?」
「そうか? 気がつかなかったな。さ、食おうぜ。冷めるよ、リッキー」

百歩……いや、千歩譲ろう。仕方ねぇ、使っちまったもんは。俺もスパイシーなのは好きだし、ちょっと多いけど…ペッパー、潰してもねぇけど……。

「フェル」
「なんだよ、今度は」
「フォーク、やっと突き刺さった」
「うん、ちょっと固いね」
「ナイフ、使いにくい」
「噛み切った方がきっと早いよ」
「…………焼き過ぎなんだよっ! このヤローっ!!!」
「だってちゃんと火通さないとリッキーの胃に……これ、ジューシーじゃないね」

 あの後はとうとうケンカになって、フェルは肉の前で腕組みしたまんま黙ってたし俺は今日はどこに押しかけようかなんて考えてた。

 そしてお互いに冷静になった時に取り決めをした。料理は俺がやる。他の家事はフェルが……洗濯以外……やる。買い物は一緒に行く。俺が選んでフェルが持つ。

 それで上手く行き始めたんで安心してたんだ。そこにこのケガだった。

「今日は初心者でも作れるシチューなんだからな、まともな味にするぞ。俺が目、逸らした時に変なもん入れんなよ」
「分かったって! しつこいよ、リッキー」
「しつこく言わねぇと何すっか分かんねぇだろ!」
「信用無いなぁ」
「無ぇよ!」

さすがにジロッと俺を睨んだけど、俺は睨み返してやった。今日の料理はバトルだ。

「お前に提案してみて、良けりゃ僕の案も取り入れる?」
「良けりゃな」
「良し! ならまず、トマト入れるのはどう?」
「バカか、お前。今日のシチューはクリーム味だ。生クリーム使っただろ?」
「でもちょっとアクセントにならないか? 色もきれいだし」
「お前、やっぱ黙って作れよ。センス無いのはっきりしたから」

それきりムスッて顔で、それでも指示には従った。

 

「後、煮込むだけだな。どれくらい煮込む?」
「今日の具の量だと10分くらいかな」
「そっか! 良かった!」
「おい、どこ行くんだ!?」
「今日さ、バスケの試合中継してるんだよ。お前も見るだろ?」
「シチューは誰が見んだよ」
「火?」
「……こっち来い」
「なんで」
「料理の途中だ」
「終わったじゃん! 10分経ったら食べるだけだろ?」
「鍋ん中、掻き回せ」

フェルが立って来た。

「何回掻き回せばいいんだ?」
「何回も」
「それをどれくらい?」
「絶え間なく」
「はぁ?」
「お前、俺が楽してお前に美味いもん食わしてたと思ってんのか?」
「いや、その、そんな風には思ってないけど」
「けど?」
「ほら、リッキーは料理好きだし」
「俺には愛があるからな。お前に美味いもん食わそうって。で、お前には愛はあるか?」
「何言ってんだよ! 当り前だろっ!! …どうする? 今夜何回する?」

俺、セックスは大好きだ。俺ほど好きなヤツはいねぇだろうって思ってたくらい。けど負けてる、絶対。

 

「今日はさ、お前の背中撫で回したい。お前の髪がずいぶん伸びてきたからもう我慢出来なくて」

後ろから髪の中にさわさわとフェルの指が入り込んで来る……。

「やめろ」
「なんでさ」

首を唇が下から這ってくる。頭を逸らしたのに耳を追いかけて来る。

「ふぇ……」

やば…入院してから俺の体は堪え性なくなってる……どこ触れれても…あ ぁ

「やめ…しちゅ……」

シャツに潜り込んだ指が…あ そこ、だめ……俺の乳首がみるみる立って行く……

「シチューはまだ大丈夫だよ。愛してる、リッキー」

入院してる間にフェルは変な技を覚えた…耳の下の方から囁くんだ…たま…んない……

「あ は、だめだ…って……やめ」
「なぁ、男ってさ、誰もがこれやってみたくなるんだ。そこに手をつけよ」

キッチンの流しに手をつかされる……後ろからフェルの逞しい体が支えてくれた。キッチンと俺の間にある空間に…フェルの手が ぅ は、だ…め、しちゅうが……

「足、開けって」
「おま すけべにな…った」
「長いこと我慢したんだから」
「たいいんして ふ…たくさんした……」
「足んない」
「どすけ…べ…」
「知ってる」

開き直ってるから、ぁ 始末に負えな……

「にお…い」
「何?」

片手はもうしっかりと俺を掴んでて…ゆっくり…上下して…

「ぃや…」
「感じてるじゃないか、こんなに」

いつの間にかジーンズが落とされて下は何も無くって…
俺はキッチンに掴まったまんま揺れていた……

 

「リッキー、これ……」
「食え、黙って」

 悪いことしたら体罰って正しいのかもしんねぇ。いくら言っても効きゃしねぇんだ、小言なんて。自分の作ったもん、食えばいいんだ。

「こんな風になるくらいならトマト入れときゃ良かったな、リッキー」

耳を疑うとはこのことだ。俺はいったいいつまでこれを我慢しなきゃなんないんだ? 早く手を直さないと、またストレスで胃潰瘍になりそうだ。

「今度はトマトシチュー作るよ。そしたらトマト入れたっていいだろ?」

「もういい! ムニエルもステーキもグラタンも全部トマト入れろよ!」
「お! それ、いいかも……怒ってる? また夜抱いてやるから機嫌直せよ。夜は何回にする?」

 

 明日のフェルのメニューは決まった。皿にトマト、切らずにゴロっと3個。それなら俺の手、使う必要無い。ニヤッと笑った俺の顔見てフェルもニコッと笑った。

「了解。たくさんしよう」

絶っっっ対、俺よりフェルの方がセックス好きだ!!

「お前さ! セックスすりゃ何でも俺が許すと思ってんだろう!!」
「僕より好きなお前に言われたくない」
「それ、そのまんまお前に返す」
「嬉しいくせに」

俺の頭ん中をいつもの言葉がチラッと掠めてった。
  ――今夜はどこに家出しよう?

 

 


                           

   

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